狂犬病臨床研究会イベント

狂犬病臨床研究会の活動について報告します

世界狂犬病デー2020ウェブセミナーで出された質問への回答集(その1)

セミナー中に出されたご質問には、残念ながら時間の関係で全てにお答えすることができませんでした。そこで、ここに答えきれなかった回答をいたします。

なお、セミナーの中でお答えした分については整理した上で、改めて「その2」として後日お示ししたいと考えています。

Q1. 臨床診断の最初のふるい分けについて、もう少し詳しい説明をお願いできませんでしょうか。月齢や、持続期間の基準がよくわからなかったのですが。

A1. 原著には、振り分け方法が次のように記述されていますので参考にしてください。。

1. その犬の年齢は?

  • 1ヵ月未満→狂犬病ではない 
  • 1ヵ月以上または不明→2に進む

2. その犬の健康状態は?

  • 正常か10日以上病的状態→狂犬病ではない 
  • 10日以内の病的状態または不明→3に進む

3. その疾患はどのように進行しているか?

  • 普通の状態から急に発病→狂犬病ではない
  • 徐々に発病若しくは不明→4に進む

4. 直近3~5日の臨床経過は?

  • 安定もしくは治療なしで改善→狂犬病ではない 
  • 症状や徴候が進行または不明→5に進む

5. その犬は旋回運動をしているか?(よろめいた円運動や目が見えないかのように頭部を壁にぶつける)

  • はい→狂犬病ではない 
  • いいえまたは不明→6へ進む

6. 死亡する最後の週の間に17徴候の内少なくとも2項目を示していたか?

 Q2. 他の疾病との鑑別が難しそうです・・。

A2. 狂犬病の鑑別診断リストとして、ジステンパー、頭部損傷、中毒、チョーク、髄膜炎脳炎てんかん等があげられます。

表はQSMIのベーラ先生による鑑別診断です。ご参考になれば幸いです。

f:id:jscsrmember:20201006191150j:plain Q3. 頭目は、日本では臨床の先生に照会は無理です。。。

A3. 麻痺型狂犬病の臨床診断は難しいといわれています。臨床診断では正しく狂犬病を疑うことが大切です。発症犬の映像を繰り返しご覧いただくことで、診断に必要な観察の眼を養って頂ければと思います。また、疫学情報が明らかでなく、症状から狂犬病を否定することが難しい場合でも、狂犬病を発症した場合には10日以内に死亡します。死亡した場合には確定診断を行うべきです。最後に実験室内で診断が確定されます。

 Q4. 3日間の悪化というのが判断が難しいと思いました。診断は非常に難しいです。3日間の悪化をどう判断するのでしょうか?

A4.初診時以降、病状が安定していたり、治療なしで改善傾向にあるものは狂犬病ではなく、症状が進行していることを確認します。狂犬病を発症した犬は10日以内に死亡します(タイ赤十字協会では発症した個体のほとんどが2~3日で死亡しているという報告があります。)。咬傷犬の観察期間が2週間である理由です。

 Q5. ワクチン接種歴があればふるい分けの段階の前に除外できますか?

A5.狂犬病の予防接種によって十分な防御抗体を持っていれば安心ですが、接種後経過期間、年齢、接種犬の免疫状状態、遺伝的背景、犬種等の遺伝的素因に由来する免疫不全などによっては、防御可能な抗体を十分に保有していない場合があります。また、頭部に近い部位を咬まれて感染した個体は発症リスクが高くなります。したがって、狂犬病の発生時には狂犬病ウイルスに曝露が疑われる個体には速やかに追加接種を行って防御可能な十分量の抗体を誘導します。

               文責:狂犬病臨床研究会副会長 杉山 和寿